本日は映画『バリー・リンドン』から、レドモンド・バリーの初恋シーンをとりあげます。
このシーンの最初のナレーションもなかなか素晴らしい名文なので、じっくり分析したいところですが、こんかい私が気になった表現はそのあとのふたりの会話にあります。
まずは英文と和訳をご一読ください。
上の動画では1:50からの部分。
映画本編では始まって4分ジャストの部分です。
NORA : I have taken the ribbon from around my neck and hidden it somewhere on my person. If you find it, you can have it. You are free to look for it anywhere you will. And I will think very little of you if you do not find it.
REDMOND : I cannot find it.
NORA : You haven’t looked properly.
REDMOND : I cannot find it.
NORA : I’ll give you a hint.
REDMOND : I feel the ribbon.
NORA : Why are you trembling?
REDMOND : At the pleasure of finding the ribbon.
NORA : You’re liar.ノラ「首に巻いていたリボンを外して、わたしのからだのどこかに隠したの。みつけたらあなたにあげる。好きに探していいのよ。もし見つけられなかったら、その程度の人だと思うわね」
レドモンド「見つからない」
ノラ「ちゃんと探してよ」
レドモンド「見つからないよ」
ノラ「じゃあヒントをあげる」
レドモンド「ああ、リボンはここだ」
ノラ「なんで震えてるの?」
レドモンド「リボンを見つけられたのが嬉しくて」
ノラ「嘘つき」
on one’s person で「携帯する」
この会話で私が「なんじゃこりゃ」と思った表現が、こちらのフレーズ。
somewhere on my person = わたしのからだのどこかに
person というと普通は「人」という意味でよく使われる言葉ですが、こんな風に「身体」という意味でも使われるんですね。
辞書で調べてみたところ、
on (about) one’s person
で、「身につけている」「携帯している」という意味の熟語になるのだそうです。
よく使われる表現なのかと他の映画で用例を探してみたところ、けっこうありました。
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』より
A ship? Hardly. The item in question is considerably smaller and far more valuable. Something Sparrow keeps on his person at all times. A compass.
(船? いやいや。問題の品物はそれよりだいぶ小さくて、はるかに価値のあるものだよ。スパローがいつも身体に身につけているもの。コンパスさ)
また、on や about などの前置詞がつかなくても、person が「身体」という意味で使われるケースはけっこう多いんですね。
私はこの『バリー・リンドン』で気がつくまで知りませんでした。
映画『ファイヤーフォックス』より
It must never leave your person. If you lose it, if it is confiscated, you’ll never make it out of Russia.
(これは肌身離さず持っていること。もし失くしたり、押収されでもしたら、君は永遠にロシアから出られない)
『ファイヤーフォックス』なんていちばん大好きなクリント・イーストウッドの映画で、高校の頃からもう何度も見ていたのに不覚でした。
ちなみに「〜を持ち歩く」「〜を携帯している」を言い表す表現としては
carry something with someone
の構文のほうが一般的ですね。
例えば
映画『マディソン郡の橋』より
And no matter how much distance we put between ourselves and this house, l carry it with me. l’ll feel it every minute we’re together.
(わたしたちがこの家を出て、どんなに離ればなれになっても、わたしはこれを肌身離さず持ち歩くわ。これでいつも一緒よ)
映画『ハリーの災難』より
I left that portrait with your mother. What right do you have to carry it around with you? It might be damaged.
(その肖像画はお前のお母さんに預けたんだぞ。なんの権利があってお前が持ち歩いてるんだ? 傷つけたらどうする)
などのように。
on one’s person は「肌身離さず」みたいに、文脈上「身体につけている」要素を強調したい場合に使える感じです。
その他の注目ボキャブラリー
be free to do 〜 = 自由に〜することができる
think very little of 〜 = 〜についてなんとも思わない(軽くみる)
properly = ちゃんと、きちんと、正しく
おわりに
本日は若き日のレドモンド(のちのバリー・リンドン)のロマンチックなひと幕から英語のフレーズをピックアップしてみました。
誰にでもあるたわいのない初恋のひとコマですが、これがレドモンドの波乱の人生のすべてのきっかけになるんですね。
次回の『バリー・リンドン』はそんな波乱の幕開けからお送りいたします。