本日はタランティーノの映画『イングロリアス・バスターズ(Inglourious Basterds)』はイギリス本部のシーンから、英語の勉強になりそうな会話部分をピックアップしてみました。
とくに「お株を奪う」「比類する」などを意味する英語表現を解説しています。
英文の引用と和訳:アーチー・ヒコックス中尉とチャーチル首相との会話
ピックアップしたのはアーチー・ヒコックス中尉がチャーチル首相に、ドイツ映画についての知識を語るところ。
ヒコックス中尉がドイツの映画会社UFAがナチス傘下になり、ゲッベルス宣伝大臣がハリウッドのユダヤ人に代わって新たな映画の黄金期を築こうと企んでいる、ということをエド・フェネク将軍に説明した後、横からチャーチル首相が口を挟んできます。
そのときの会話。
上に貼った動画の2:20からの部分。
映画本編では、はじまって1時間6分45秒のところです。
CHURCHILL : You say he wants to take on the Jews at their own game. Well, compared to, say, Louis B. Mayer, how’s he doing?
LT. HICOX : Quite well, actually. Since Goebbels has taken over, film attendance has steadily risen in Germany over the last eight years. But Louis B. Mayer wouldn’t be Goebbels’ proper opposite number. I believe Goebbels sees himself closer to David O. Selznick.チャーチル「奴がユダヤ人からお株を奪おうとしている、とのことだが、そうだな、ルイス・B・メイヤーと比べて、奴の手腕はどうだ?」
ヒコックス中尉「実際のところ、とてもうまくやっています。ゲッベルスが引き継いで以来、過去8年間、ドイツ映画の観客動員数はうなぎのぼりです。しかしゲッベルスに比類する人物としては、ルイス・B・メイヤーは少し違うかと。彼は自分自身をむしろ、デヴィッド・O・セルズニックに近い存在だとみているんじゃないでしょうか」
お株を奪う – take on 〜 at one’s own game
さて、まずはこちらの一行。
He wants to take on the Jews at their own game.
(彼はがユダヤ人からお株を奪おうとしている)
take on
ここに take on というボキャブラリーが出てきますね。
take on = (仕事・責任などを)引き受ける、戦う、挑戦する
同じ『イングロリアス ・バスターズ』の最初のほうのシーンで、アルド・レイン中尉のセリフにも出てきた言葉です。
When you join my command, you take on debit. A debit you owe me, personally. Each and every man under my command owes me 100 Nazi scalps.
(オレの部隊に所属したら、債務を負ってもらう。オレ個人に支払う債務だ。オレの部下になったヤツは全員、ひとりにつき100枚、ナチの頭の皮を剥いでよこせ)
こんな感じで、仕事などを「引き受ける」とか、「挑戦する」みたいな意味で使えます。
80年代に『Take on me(わたしを受け止めて)』って歌もありましたね。
at one’s own game
次はこちらのボキャブラリー。
at one’s own game = 〜の得意な分野で、〜の得意技を使って
これは例えば腕相撲が強い人に対して、腕相撲で勝負を挑むとか、プロレスの試合で、バックドロップが得意な選手に対して、バックドロップで勝つとか、そんな状況で使える言葉ですね。
プロレス用語で相手の技を使うことを「掟破り」といいますが、ちょっと似たような意味かもしれません。
これに beat(打ちのめす)という動詞を組み合わせて
beat someone at one’s own game = 〜のお株を奪う
という熟語もあります。
他の映画からも用例を探してみました。
映画『タイタンの戦い(1981)』より
THETIS : He tried to ravish me disguised as a cuttlefish.
HERA : Did he succeed?
THETIS : Certainly not.
ATHENA : What did you do?
THETIS : Beat him at his own game. I turned myself into a sharkテティス「彼、イカに化けてわたしを襲おうとしたのよ」
へーラー「うまくいった?」
テティス「ダメに決まってるでしょ」
アテナ「どうやったの?」
テティス「彼のお株を奪ってやったわ。サメに化けたの」
上の会話はギリシャの女神たちのセリフです。
女好きの神ゼウスがいろんな動物に変身して女たちをたぶらかしていたそうなんですね。
それを、女神のテティスが自分も同じ変身の力を使って追い払った、ということを言っている会話ですね。
こんな風に、相手の得意分野で、または得意技を使って、相手をやり込める、みたいなケースで使えます。
今回、冒頭に引用した『イングロリアス・バスターズ』の会話では、ユダヤ人たちが大きな権力を握っている映画業界に参入して、ユダヤ人たちに対抗する、といった状況で使われていますね。
比類する – opposite number
さらにこちらの一行。
Louis B. Mayer wouldn’t be Goebbels’ proper opposite number.
(ルイス・B・メイヤーは、ゲッベルスに比類する人物としてはふさわしくないと思います)
opposite number = (他の国・地域・組織・職場などで)対等の地位にいる人
「同じ機能・性質を持った人、あるいは物」と書いてある辞書もありました。
他での用例としては、同じタランティーノの映画『キル・ビル』の脚本に、エル・ドライバーにとってのブライドが「opposite number」だというト書きがありました。
日本語でいう「比類する人物」とか「比肩する人物」みたいな表現がいちばん当てはまるんじゃないかと思います。
人物の偉大さや特徴を説明するときなんかに使える言葉ですね。
例えば外人に
「萩本欽一は日本のジェリー・ルイスみたいな人だ」
なんて説明をするときに
Kinichi Hagimoto is, like, the opposite number of Jerry lewis in Japan.
と言うとか。
ただ上記の例の場合、もっとシンプルに
Kinichi Hagimoto is like Japanese Jerry Lewis.
と言ってもいいと思いますけれども。
今回、冒頭に引用した『イングロリアス・バスターズ』の会話では、ドイツ映画界におけるゲッベルスの存在は、ちょうどアメリカ映画界において誰に当たる、みたいな説明に使われていますね。
その他のボキャブラリー
compared to = 〜と比べて
take over = (義務や責任などを)引き受ける、引き継ぐ、(権力などを力づくで)奪う
attendance = 出席者、出席者数
steadily = どんどん、着実に
あとがき
ちなみに本日、引用した会話文を読んで「ルイス・B・メイヤーやデヴィッド・O・セルズニックって誰?」と思った方は、以前の記事『【イングロリアス・バスターズ】のセリフで学ぶ映画の歴史』をぜひ読んでみてください。