クエンティン・ タランティーノ監督・脚本の映画『パルプ・フィクション(Pulp Fiction)』のセリフで英語の勉強をするシリーズ。
いよいよメインの主役ともいえるべきヴィンセントとジュールズの登場です。
本日とりあげるのは、車の中で、オランダのアムステルダムから帰ったばかりのヴィンセントが、ジュールズにあちらの大麻事情を説明するシーン。
ここの会話はタランティーノらしいおもしろい表現は少ないですが、英語の勉強になるボキャブラリーはけっこう出てきます。
セリフの英文の引用と和訳
それではまず、映画からセリフの抜粋とその和訳を掲載します。
映画がはじまって6分50秒くらいのところ。
JULES : Hash is legal there, right?
VINCENT : It’s legal, but it ain’t 100% legal. You just can’t walk into a restaurant, roll a joint and start puffin’ away. I mean, they want you to smoke in your home or certain designated places.
JULES : Those are hash bars?
VINCENT : Yeah. It breaks down like this. It’s legal to buy it. It’s legal to own it. And if you’re the proprietor of a hash bar, it’s legal to sell it. It’s legal to carry it, but … but … that doesn’t matter, ‘cause … get a load of this. All right. If you get stopped by a cop in Amsterdam, it’s illegal for them to search you. I mean, that’s a right the cops in Amsterdam don’t have.
JULES : Oh, man! I’m goin’. That’s all there is to it. I’m fuckin’ goin’.
VINCENT : I know, baby. You’d dig it the most.ジュールス「ハッパはあっちじゃ合法なんだろ?」
ヴィンセント「合法だよ。でも100%合法ってこととは違う。ただレストランに入ってジョイント巻いてスパーッとやるってわけにはいかない。つまり自宅とか、指定された特定の場所でしか吸えないんだ」
ジュールス「それがコーヒーショップってことか?」
ヴィンセント「そう。つまりこういうことだ。買うのは合法。所持も合法。コーヒーショップのオーナーなら売るのも合法。持ち運ぶのも合法。だが……まあ……それはどうでもいい。肝心なのはここだ。アムステルダムで警官に職質されても、奴らに身体検査をする権利は無いってこと」
ジュールス「そいつはいい。行くしかないな。俺も行くぜ」
ヴィンセント「だろ。お前なら最高に気にいるよ」
hash や hash bar の解釈について
本格的な英語の勉強にいく前に、まず大麻に関するボキャブラリーについて曖昧なところをはっきりさせておきたいと思います。
hash について
hash という単語が出てきますね。
hash は普通に考えたらハッシュドビーフ(hashed beef = 細切れ肉の煮込み料理)のハッシュと思いがちですが、ここでの意味は違います。
hash = Hashish の略 = ハシシ
「ハシシ」とは、普通、大麻の樹脂を固めたものを指します。
しかしここのセリフでは、単に「大麻」一般のことをこう呼んでいるみたいですね。
ドラッグというものは普通は違法、または後ろ暗いものですから、だいたいにおいて隠語のようなものが存在しますよね。
この hash もそのひとつだと思っていいでしょう。
ちなみに日本語で定番のドラッグの隠語というと、こんな感じでしょうか。
大麻 → ハッパ
覚せい剤 → スピード
シンナー → アンパン
コカイン → コーク
LSD → アシッド
ハシシ → チョコ
ヘロインもいろいろ隠語がありますが、普通は「ヘロイン」て呼ぶ場合が多い気がしますね。
とりあえず今回は慣習にならって hash は「ハッパ」と訳しました。
hash bar について
次に hash bar の解釈。
文字通りには「ハシシ・バー」ということですが、オランダで大麻を買ったり吸ったりすることができる店を俗に「コーヒーショップ」と呼ぶようですね。
このシーンではコーヒーショップのことを俗っぽくこういう言い方をしているんだと思いましたので、翻訳もそれにならい、
hash bar = コーヒーショップ
と訳しました。
designated について
ここまでは雑談みたいなもので、本日の英語の勉強はここからが本番です。
They want you to smoke in your home or certain designated places.
(自宅とか、指定された特定の場所でしか吸えないんだ)
ここに designated って単語が出てきます。
designate = 明確に示す、選定する、指名する
過去分詞にして形容詞化すると
designated = 指定された、専用の
例えば以下のように使える言葉です。
– the designated area(指定された場所)
– a public place designated for recreation(散歩する専用の場所)
– a country’s designated cultural property(国の指定文化財)
– He transfered a designated amount of money.(彼は指定された金額を支払った)
この designated という言葉は最近、キーファー・サザーランド主演のドラマ『Designated Survivor(邦題:サバイバー/宿命の大統領)』のタイトルで有名になりましたね。
この Designated Survivor(指定生存者)というのは、アメリカの国会に万が一のことがあったときのために大統領継承権保持者の生存を1名だけ確保しておく制度のことです。
このドラマでは、第1話で国会が爆破され、大統領・副大統領をはじめ議員が全滅し、大統領継承権保持者の末席にいた一介の住宅都市開発長官だった主人公が、いきなりアメリカの大統領になってしまうという、トンデモないはじまりかたがおもしろかったですね。
break down について
これはちょっと解釈が厄介な1行です。
It breaks down like this.
(つまりこういうことだ)
ここに break down という熟語が出てきます。
普通は「壊す」「解体する」「故障する」などの意味で使われますね。
前にも「トム・ペティの『Breakdown』の歌詞で英語の勉強」という記事で書きましたけど
break は「壊す」という意味の動詞
down は「下に」を意味する副詞
つまり break down で、何かをバラバラに壊したり、分解したりして、その部品を下に置いて並べる、または機能がダメになって、下に止まったまま動かなくなる、というイメージの熟語です。
しかしこの『パルプ・フィクション』のセリフは、それでは意味が通りませんよね。
日本語の辞書を引いてみても、どうもしっくりくる意味が載っていません。
そこで英英辞書を引いてみると、こんな意味が載っていました。
to explain something step by step
(噛み砕いて説明する)
例文も引用します。
Let me break it down for you.
(噛み砕いて説明してあげるよ)
「物事をバラバラに分解し、その部品を下に並べる」という概念から考えると、こういう使われ方をするのもしっくりくるものがありますよね。
つまり、こちらの『パルプ・フィクション』のヴィンセントのセリフ
It breaks down like this.
これを直訳すると、「それはこう噛み砕いて説明されるんだ」ということですね。
私は「つまりこういうことだ」と訳しました。
get a load of について
これも映画などでよく聞く表現ですね。
Get a load of this
(肝心なのはここだ)
get a load of = 〜を注意して見る、〜を注意して聞く
この熟語が出てくるよく使われる慣用句としては
Get a load of that!
(ほら、あれを見て!)
Get a load of this!
(ねえ、聞いて!)
などがありますね。
日本語で「刮目せよ」なんて言葉がありますが、あれの英訳にも使えそうです。
このパルプフィクションのセリフでは、「まあ聞けよ」みたいな意味ですね。
ちなみにこの熟語で有名な映画のセリフというと、やはりこれしかないでしょう。
映画『バットマン(1989)』
Wait till they get a load of me!
(今に見てろ、皆が俺に注目するのだ!)
この『バットマン』のジョーカーの名ゼリフはあちこちでパロディになっていて、記憶に新しいところ(といっても十年近く前ですが)では『キック・アス』という映画のラストのセリフに引用されていましたっけ。
That’s all there is to it について
ジュールズがさりげなく言うこのひと言。
That’s all there is to it.
これは英会話必須のセリフですので、ご存知ない方は覚えておくとよいですね。
文字通りには「それで全て終わり」「それで全部」という意味。
そのまんま慣用句で
「それだけのことだ」
みたいな意味で使われます。
このパルプフィクションのセリフでは、オランダのアムステルダムでは大麻が吸い放題だという情報を聞いて、ジュールズが
「それだけ聞けば十分だ(俺もアムステルダムに行きたいぜ)」
みたいなニュアンスで言っているわけですね。
いちばん自然な日本語に意訳するとしたら「それで決まりだな」ってなところでしょうか。
dig it について
最後はこちらのセリフ。
You’d dig it the most.
(お前なら最高に気にいるよ)
ここに出てくる dig it という熟語について。
dig は通常「掘る」という意味の動詞ですが、この場合の dig はスラングで、「楽しむ」とか「好む」という意味になります。
dig は他にも「味わう」とか「理解する」みたいなニュアンスでも使えるので、このあたりから「楽しむ」「好む」の用法へと発展したのはなんとなくわかりますね。
その他のボキャブラリー
joint = ジョイント
大麻を紙に巻いてタバコのように吸えるようにしたもの
puff away = スパスパ吸う
proprietor = 持ち主、所有者、経営者
あとがき
映画『パルプ・フィクション』で英語の勉強をするシリーズ、本日からしばらくヴィンセントとジュールズの会話をとりあつかいたいと思います。
今回は軽いジャブばかりでしたが、この二人の会話はこの後おもしろい表現がたくさん出てくるので、今から楽しみです。