ジュールズとヴィンセントの会話はまだつづく。
というわけで、前回に引き続き、タランティーノの映画『パルプ・フィクション』から、英語の勉強に役立ちそうなボキャブラリーをピックアップして解説していきたいと思います。
とは言っても、本日はひとつだけ、英会話には役に立ちそうもないボキャブラリーが含まれています。
しかしとてもおもしろい表現なので、私の中ではそちらがメインだったりします。
会話の内容はアントワン・“トニー・ロッキー・ホラー”・ロカモラという人物についての話題。
英文テキストと和訳:
それではまず以下の引用文をご一読ください。
上の動画では1:02からの部分。
映画本編では始まって9分30秒くらいのところです。
JULES : You remember Antwan Rockamora? Half-black, half-Samoan. Used to call him “Tony Rocky Horror.”
VINCENT : Yeah, maybe. Fat, right?
JULES : I wouldn’t go so far as to call the brother fat. I mean, he got a weight problem. What’s a nigger gonna do? He’s Samoan.
VINCENT : I think I know who you mean. What about him?
JULES : Marsellus fucked him up good. Word around the campfire is it was on account of Marsellus Wallace’s wife.ジュールス「アントワン・ロカモラを覚えてるか? 黒人とサモア人とのハーフでよ。“トニー・ロッキー・ホラー”って呼ばれてた」
ヴィンセント「ああ。たぶん。デブだろ?」
ジュールス「デブは言いすぎだ。そりゃ、肥満の問題は抱えてたが。ヤツに何が出来る? サモア人だぜ」
ヴィンセント「言いたいことはわかるよ。ヤツがどうした?」
ジュールス「マーセラスにカタつけられちまったよ。噂じゃあマーセラス・ウォレスのワイフが絡んでるって話しだ」
What’s a nigger gonna do? He’s Samoan
まずはこちらのセリフ。
I mean, he got a weight problem. What’s a nigger gonna do? He’s Samoan
(そりゃ、彼は肥満の問題を抱えていたが。ヤツに何が出来る? サモア人だぜ)
nigger という言葉について
タランティーノの映画には nigger という言葉がよく出てきます。
この nigger という言葉は本来「黒人」を意味する差別用語ですが、黒人自身が使用する限りにおいては「ヤツ」とか「野郎」というニュアンス、他の英語でいうと「buddy(仲間)」みたいな使い方に当たりますね。
後のシーンでマーセラス・ウォレスが、ビジネスの商談が成立した後で、ビジネス相手(白人)に「my nigger」と言うところがありますが、あれなんか「my buddy」と同じニュアンスですよね。
What’s a nigger gonna do?
この
What’s a nigger gonna do?
は、言うまでもなく
What’s a nigger going to do?
のことです。意味は
「ヤツに何が出来る?」
ということになります。
困ったときなんかに
What am I gonna do!?
(どうしよう!?)
(どうしたらいいんだ!)
なんて言い方がありますよね。
これと同じことですね。
Samoan = サモア人
Samoan = サモア人
調べてみたところ、サモア人は体格が良くて、筋肉や脂肪がつきやすい体質なのだそうです。
つまり、まとめると、こちらのセリフ
I mean, he got a weight problem. What’s a nigger gonna do? He’s Samoan.
(そりゃ、彼は肥満の問題を抱えていたが。ヤツに何が出来る? サモア人だぜ)
は、「ヤツはサモア人だぜ。多少太ってたってしょうがないだろ」みたいなことを言っているセリフということになりますね。
Marsellus fucked him up good
次はこちらのセリフ。
Marsellus fucked him up good.
(マーセラスがヤツを完全にぶちのめした)
fuck someone up
こちらはスラング表現ですが、一応リスニング用に覚えておきましょう。
(ご自身では使わないようご注意ください)
fuck someone up = 〜を痛い目に合わせる、やっつける、カタにはめる
具体的には、人様に「深刻な身体的・精神的ダメージを与える」あるいは誰かを策略などによって「失敗をやらかすよう仕向ける」などの意味になります。
good – 副詞としての用法
ここのセリフに出てくる good は、「良い」じゃなくて、強調を表す副詞としての用法です。
「見事に」「立派に」「完全に」などの意味で使われます。
ここのセリフでは文脈的に「コテンパンに」といったニュアンスでしょうか。
使用例を他の映画のセリフから挙げると、こんな感じです。
It is fishy. Get you good.
(胡散臭いわね。まんまといっぱい食わされるわよ)
※映画『50回目のファースト・キス』よりLet’s tie him to a stake and burn him good!
(あんなやつ、棒にくくりつけて灰になるまで燃やしちゃえばいいのよ)
※映画『モンキー・ビジネス』よりJoe knows him good.
(ジョーは彼のことをよく知っている)
※映画『レザボア・ドッグス』よりYou’re gonna flatten him good.
(あいつをぺしゃんこにしてやれ)
※映画『ウエスト・サイド物語』よりI spanked her good.
(こっぴどくお仕置きしてやったわ)
※映画『悲しみは空の彼方に』よりWe scared them good and we damn near run them out.
(みんなを酷く脅かしてしまって、逃げ出されるところだったよ)
※映画『ペイルライダー』より
Word around the campfire is it was on account of Marsellus Wallace’s wife
さてお次は、今日の記事でいちばん楽しいセリフです。
Word around the campfire is it was on account of Marsellus Wallace’s wife.
(噂じゃあマーセラス・ウォレスのワイフが絡んでるって話しだ)
Word around the campfire の解説
これは映画『パルプ・フィクション』に出てくる私のお気に入りの表現のひとつです。
Word around the campfire
文字通りには「キャンプファイヤーの周りで聞こえてきた話し」ですが、「噂話」という意味になるのはわかりますよね。
Word around the campfire is 〜 で、「みんなが話していたことによると」という文脈になります。
これはタランティーノ一流のレトリックで、正式にこういう英熟語はありません。
ただスラング専門の英語辞典 Urban Dictionary で 「campfire(キャンプファイヤー)」をひいてみると、「When two or more people get together and share stories on authentic experiences(複数の人たちが集まって確かな情報筋に基づく話しを共有し合っている様)」と出てきますので、campfire という言葉がこの手の文脈で出てくることはあるようです。
覚えておいても英語のボキャブラリーを増やしたことにはならないかもしれませんが、おもしろい言い方なので一度は親しい友達との会話なんかで使ってみたいものです。
on account of の解説
一方こちらは英会話必須のボキャブラリーです。
on account of = 〜のために、〜の理由で
because of と同じように使えますが、because of の方がよりカジュアルに使われているようです。
他に似たような言葉で due to もありますが、こちらも on account of と同様、フォーマルな印象だそうです。
フォーマルといっても、今回の用例のように、気軽な友達同士の会話でも普通に使われます。
ちょっと言い回しに変化をつけたいときなどに覚えておくといいかもしれません。
あとがき
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こうしてブログをやっていて皆様の役に立っていただけた、と言う声を聞くことほど嬉しいことはありません。
私も一英語学習者として、有意義だと思った情報を同じように英語を勉強している皆様とシェアできたらいいな、と思って始めたものですが、その甲斐があったと思える瞬間が、読んでくださる皆様の声を聞けたときです。
この場を借りて、感謝の意を伝えたいと思います。
ありがとうございます。
これからも末長く、映画を使った英語の勉強も、このブログも、ずっと続けていきたいと思いますので、今後とも『映画で英語を勉強するブログ』をよろしくお願いいたします。
感想やご意見、リクエストなどありましたらお気軽にメッセージお待ちしております。