タランティーノの映画『レザボア・ドッグス』のオープニングの会話で英語の勉強をする記事の2番目です。(前回はこちら)
今回は有名なチップについての会話部分から、英語のボキャブラリーをピックアップして解説してみたいと思います。
cough up some green
朝食を食べ終わり、ボスの息子のエディが皆にチップをテーブル上に置くように呼びかけます。
All right, everybody cough up some green for the little lady.
(さあ、みんな、あのウエイトレスのお嬢さんのために金を置くんだ)
※映画が始まって4分のところ。
「cough up」は「咳払いする」を意味する動詞ですが、スラングで「(お金を)支払う」という意味もあります。
cough up = 咳払いする、支払う
green = 緑、お金
色の「緑」を意味する単語「green」がスラングで「お金」を意味するのは、アメリカのドル紙幣が緑のインクで刷られていることからきているそうです。
have balls to 〜
チップを払いたがらないミスター・ピンクに、ミスター・ブルーが「ウエイトレスは低賃金で働いているんだぞ(だからチップを払うべきだ)」と指摘します。
そこでミスター・ピンクが言い返し、さらにエディが横から呆れて言葉を挟んできます。
MR. PINK : If she don’t make enough money, she can quit.
EDDIE : I don’t even know a fuckin’ Jew who’d have the balls to say that.ミスター・ピンク「金が稼げなきゃ辞めればいいさ」
エディ「そんな図々しいこと、ユダ公でさえ言わないぜ」※映画が始まって4分半のところ。
have balls to 〜 = 〜する勇気がある、根性がある
ここでいう「balls(玉)」は、言うまでもなく男性の「キ○タマ」のことですね。
put forth effort と for the birds
ミスター・ピンクが続けてチップを払う習慣をバカにする言葉を続けます。
If they really put forth the effort, I’ll give ‘em something extra. But this tipping automatically, it’s for the birds.
(特別に頑張ってくれたっていうんなら、余分な金を払いもするさ。でも機械的にチップを払うなんて、くだらないよ)
※映画が始まって4分45秒のところ。
put forth effort = 努力する、力を入れる
for the birds = くだらない、つまらない
「for the birds(鳥のため)」で「くだらない」「つまらない」の意味になるんですね。
これは「shit for the birds」の「shit(糞)」が省略されているのだそうです。
語源は、鳥は道に落ちている馬の糞を、そこに含まれている未消化の種を求めてつつくことがある、というところからきているとのこと。
つまり「馬の糞のようにつまらないもの」という意味なのだそうです。
deem
ミスター・ピンクがさらに同じことを言葉を変えて、自分の経験を引き合いに出しながら。くどくどと論証します。
These ladies aren’t starvin’ to death. They make minimum wage. I used to work minimum wage, and when I did, I wasn’t lucky enough to have a job that society deemed tip-worthy.
(この子たちは飢えに苦しんでいるほどじゃないだろ。最低賃金は稼いでるよ。俺は昔、最低賃金で働いてたけど、そん時は不幸にも、社会がチップを払う職業だとみなしてくれなかったぜ)
※映画が始まって5分25秒のところ。
minimum wage = 最低賃金
deem = みなす、そう考える、〜だと判断する
count on と world’s smallest violin
上の会話からの続き。
ミスター・ブルーが反論し、ミスター・ピンクがまたそれに言い返す。
水掛け論は続きます。
MR. BLUE : You don’t care they’re counting on your tips to live?
MR. PINK : You know what this is? The world’s smallest violin, playing just for the waitresses.ミスター・ブルー「あの子たちはお前のチップを生活費の当てにしてるのがわからないのか?」
ミスター・ピンク「これが何だかわかるか? 俺がウエイトレスたちのために奏でてあげられるせめてものささやかなヴァイオリンだ」※映画が始まって5分30秒のところ。
count on = 〜を頼りにする、〜を当てにする
2行目に「world’s smallest violin」という実におもしろい表現が出てきますね。
文字通りには「世界で一番小さなヴァイオリン」という意味ですが、皮肉っぽいニュアンスで使われる英語表現だそうです。
例えば誰かがこれみよがしに不幸な身の上話しをしていて、あなたがそれを聞くのにうんざりしているような場合、「それはそれは、おかわいそうに」と皮肉っぽく言葉を掛けるときに、この表現が使えます。
通常はこの映画のシーン(下の画像参照)のように、親指と人差し指をこすりあわせながら、「This is the world’s smallest violin, and it’s playing just for you.」みたいな感じで使うそうです。
参考文献:Urban Dictionary
bust one’s ass
さらにミスター・ホワイトがウエイトレスを擁護します。
These people bust their ass. This is a hard job.
(この子たちは頑張ってやってるよ。ハードな仕事だぜ)
※映画が始まって5分40秒のところ。
bust one’s ass = 懸命に努力する、全力で取り組む
「bust」という動詞は「壊す」とか「折る」とか「殴る」などの意味があります。
「ass」は「おケツ」という意味。
なので文字通りには「尻を叩く」といったところ。
まあ、日本語でいう「骨を折る」みたいな言葉の使い方だと思えばわかりやすいかもしれませんね。
あとがき
2回連続で『レザボア・ドッグス』の冒頭の会話シーンを解説してきました。
この映画は登場人物がほとんどここに出てくる8人だけですが、この冒頭のシーンで、これらのメインキャラクターたちの性格や立ち位置が一発でわかるようになっています。
例えばミスター・ホワイトは親しい友人に憎まれ口を叩いたりするけれども、根はいいヤツ。
ミスター・ピンクは理路整然とした考え方ができるけれども、ちょっと理屈っぽい。
ミスター・ブロンドは、さっぱりした男だけど、チップを出し渋るミスター・ピンクみたいな理屈っぽい男にはあからさまにイラついてる。
ボスのジョーは貫禄があってユーモアがある。
しかし何といってもこの中でいちばん興味深いのは、ミスター・オレンジの存在。
彼は実は潜入捜査をしている警官なので、必死にヤクザ者の会話についていってるけれども、エディに軽く窘められたり、ボスに「うるさい」と言われたりして、ちょっと浮いている様子。
しかし周りの皆に怪しまれるには程遠いレベルなので、我々もこの映画を1度目に見てる時は気が付きませんが、二度目に見ると、はっきりわかりますよね。
タランティーノの会話センスはただウィットに富んでいるだけじゃなくて、それによってしっかり人物造形が細かく描き込まれているところが素晴らしいと思います。
英語の勉強もし甲斐があるってものです。