タランティーノの映画『レザボア・ドッグス』の冒頭の会話シーンは映画史上もっとも有名な映画のオープニング・ダイアローグと言っても過言ではありません。
それでは、皆さんに質問です。
このシーンで話されていた話題といったら、何を思い出しますか?
・マドンナの話題
・チップの話題
まずこの2つは真っ先に思い出すと思います。
次にちょっと考えて、これも思い出す人、いますよね。
・手帳の話題
それでは、この話題を思い出せる人はどれくらいいるでしょうか?
・ヴィッキー・ローレンスの『The Night The Lights Went Out In Georgia』の話題
けっこう『レザボア・ドッグス』を何度も見返した人の中にも、「そんな話題出てたっけ?」なんて首をかしげる人、いるんじゃないでしょうか。
Googleで「レザボア・ドッグス The Night The Lights Went Out In Georgia」で検索しても、一件も引っかかってこないくらい、印象の薄い部分だったようです。
そこでこのブログでは、2回にわたって、この部分をとりあげて、英語の勉強をしています。
前回は、曲の歌詞の和訳と内容について解説いたしました。
(こちらの記事を先に読むことを推奨します)
そして今回は、この曲が『レザボア・ドッグス』のどのような会話の流れで、どう扱われたのか、がわかる部分をピックアップしました。
まずは『レザボア・ドッグス』の問題のシーンの会話をご覧ください。
英文の引用と和訳:エディがヴィッキー・ローレンスの歌について話すシーン
冒頭に貼った動画では2:57からの部分。
DVDでは始まって3分目のところです。
EDDIE : You guys been listenin’ to K-BILLY’s “Super Sounds of the 70’s” weekend?
MR. PINK : Yeah. That’s fuckin’ great.
EDDIE : You believe the songs they’re playing?
MR. PINK : Know what I heard the other day? “Heartbeat, It’s a Lovebeat” by little Tony DeFranco and the DeFranco family. I haven’t heard that song since I was in the fifth fuckin’ grade.
EDDIE : When I was comin’ down here, “The Night the Lights Went Out in Georgia” came on. I ain’t heard that song since it was big. But when it was big, I must’ve heard it a million-trillion fuckin’ times. But this is the first time I ever realized that the girl singing the song is the one who shot Andy.
MR. BROWN : You didn’t know that Vickie Lawrence was the one who shot Andy?
EDDIE : I thought the cheating wife shot Andy.
MR. BLONDE : They say that at the end of the song.
EDDIE : I know, motherfucker. I just heard it. That’s what I’m talking about. I must’ve zoned out during that part before.エディ「お前ら、週末の、K-ビリーの70年代スーパーサウンズ聴いてるか?」
ミスター・ピンク「おう、あの番組はイイよな」
エディ「あの番組は選曲がイカしてるよな?」
ミスター・ピンク「こないだ何がかかったと思う? トニー・デフランコとデフランコ・ファミリーの『恋のハートビート』だよ。聴いたの小五のとき以来だぜ」
エディ「ここに来る途中でよ、『ジョージアの灯は消えて』がかかったんだ。大ヒットしてたとき以来、聴いてなかったけど、当時は百万回か何兆回か耳にしたよ。それがさ、アンディを撃ったのがあの歌い手の女子だって今回、初めて知ったんだ」
ミスター・ブラウン「アンディを撃ったのがヴィッキー・ローレンスだって知らなかったっての?」
エディ「俺は浮気してた奥さんががアンディを撃ったんだとばかり思ってた」
ミスター・ブロンド「歌の最後の方で言ってるじゃねえか」
エディ「わかってるよ。さっき聴いたばかりだって。だからそれを今、話してんじゃねえかよ。しかし、そこの部分で俺はいつもボーッとしてたとしか思えない」
前回、和訳して解説した元の曲の歌詞と照らし合わせると、会話の内容がおわかりになったかと思います。
それでは英語の解説をしていきたいと思います。
You believe the songs they’re playing?
You believe the songs they’re playing?
(あの番組は選曲がイカしてるよな?)
ここはかなり意訳していますが、こんな感じのニュアンスを言っている一行。
直訳すると「あそこでかかっている曲を信じられるか?」ということになりますが、つまり「選曲が素晴らしい」という感激を伝える英語表現だと思います。
Know what I heard the other day?
ここは英会話に使える表現が学べる一行。
Know what I heard the other day?
(こないだ何がかかったと思う?)
最初の「know what」は「you know what」の「you」が省略されている形。
you know what 〜 = 〜だと思う?、〜か知ってるか?
また、「you know what」は単独で使うと「ねえねえ、聞いてよ」「あのさあ」みたいな意味で英会話によく出てきますよね。
「you know what」は「guess what」と言い換えても同じような意味になります。
the other day = こないだ、先日
I ain’t heard that song since it was big.
I ain’t heard that song since it was big.
(大ヒットしてたとき以来、あの歌を聴いてなかった)
ここの「it was big」は「大ヒットしていた」という意味だと思います。
つまり「big hit」の「hit」が略されているスラング表現でしょう。
You didn’t know that Vickie Lawrence was the one who shot Andy?
You didn’t know that Vickie Lawrence was the one who shot Andy?
(アンディを撃ったのがヴィッキー・ローレンスだって知らなかったっての?)
ここは英語の解説ではありませんが、ちょっとおもしろいと思ったのでピックアップしました。
よくカジュアルな会話で、映画のストーリーなどを説明するときに、役名ではなく演じている俳優の名前で語ること、よくありますよね。
例えば「『タイタニック』のラストでディカプリオが〜」みたいな感じで。
ここはまさにそのケースですね。
アンディを撃ったのは「語り手である妹」なのですが、ミスター・ブラウンはそれを、歌っている歌手ヴィッキー・ローレンスの名前で言っています。
ちょっとしたリアリティを感じさせるセリフ回しがいいですね。
zone out
I must’ve zoned out during that part before.
(そこの部分でボーッとしていたとしか思えねえ)
ここにも英会話に使えそうなこんな表現があります。
zone out = ボーッとする、居眠りをする、集中が切れる
「zone」は「ゾーン」、つまり「区域」を意味する言葉。
これが動詞になると「区分する」みたいな意味になり、さらに「out」をつけることで、「その時だけ頭から意識がスッポリ抜けてしまっていた」みたいな意味で使えるんですね。
あとがき
『レザボア・ドッグス』の冒頭の会話シーンの英語を解説する記事の第3回目。
ラストである今回はヴィッキー・ローレンスの『The Night The Lights Went Out In Georgia(ジョージアの灯は消えて)』についての話題を話している部分をとりあげました。
参考になれば幸いです。
本日の本題とはずれますが、以前の記事で、この冒頭の会話で、8人のメインキャラクターたちの性格や立ち位置が一発でわかるようになっている、ということを書きました。
本日ピックアップした部分でひとつ注目したいのは、エディが「今日の今日まで、アンディを撃ったのが歌い手の女の子だということを知らなかった」と話しをしたときに、ミスター・ブロンドが「歌の最後の方で言ってるじゃねえか」と言い、それに対してエディが頭にきて、ミスター・ブロンドを罵倒するような口ぶりで言い返すところ。
この映画の後のほうを見ると、エディとミスター・ブロンドは無二の親友で、親しい間柄だからこそこういう乱暴な言葉を気軽に交わし合える仲だってことがわかるんですが、この段階ではわれわれ観客はそのことを知らないので、この2人はそれほど仲が良くないのかな、という印象を抱くようなミスリードがされています。
この映画を二度目に見ると、こういう細かいところがタランティーノの映画はよく作り込まれているのがわかって、新たなおもしろさが感じられると思います。
それでは最後に、話題の「K・ビリーの70年代スーパーサウンズ」から、一曲お聴きください。
本記事の姉妹記事ですので、是非こちらも併せてご一読ください。