本日からディズニー映画『塔の上のラプンツェル(Tangled)』をとりあげたいと思います。
本題に入る前に原題の『Tangled』とはどういう意味か。
tangle は「もつれあう」「からみあう」などをあらわす動詞です。
言うまでもなく、主人公ラプンツェルの長い髪のことを指しているようですね。
また、この tangle という動詞は文脈によって「夢中にさせる」「巻き込む」「口論する」などと解釈できることもあるようです。
これらの意味もストーリーの内容を象徴していると言えるかもしれませんね。
さて第1回目の本日は、この映画のなかで何度となく歌われる魔法の呪文の歌詞をとりあげたいと思います。
まずは英語の歌詞と私の和訳をどうぞ。
Healing Incantation
よみがえりの呪文
Flower, gleam and glow
Let your power shine
Make the clock reverse
Bring back what once was mine
花よ、光りかがやき
その力を照らせ
時間をさかのぼり
かつてのわたしをとりもどせ
Heal what has been hurt
Change the Fates’ design
Save what has been lost
Bring back what once was mine
傷を癒し
定められた運命を変え
失われたものを救いだし
かつてのわたしをとりもどせ
What once was mine
かつてのわたしを
タイトル Healing Incantation について
この曲、日本でのオフィシャルなタイトルは『魔法の花』というそうですが、もとのタイトルはぜんぜん違いますね。
Healing Incantation
よみがえりの呪文
Incantation = 呪文、まじない、魔法
この Incantation の真ん中へんの部分はラテン語で「歌う」を意味する cantare が語源です。
日本語でも「カンタータ(合唱曲のジャンル名)」とか「カンタービレ(音楽用語で「歌うように」の意味)」など、似たようなカタカナ語があるので、覚えやすいですね。
問題は healing の解釈。
healing はカタカナ語にもなっている「ヒーリング」いわゆる「癒し」を意味する言葉ですが、この歌詞の場合は「癒し」と訳すとちょっと違いますよね。
傷を癒すシーンもありますが、メインとしては「若がえらせる」シーンが中心ですから。
ここは歌詞にもあるように「失われていたモノをとりもどす」概念を強調して「回復させる」の意味で訳すのが妥当だと思います。
私は「よみがえりの呪文」と訳しましたが、「再生の呪文」などと訳してもいいですね。
似たような表現が3つも gleam, glow and shine
Flower, gleam and glow
Let your power shine
花よ、光りかがやき
その力を照らせ
この一節に同じような意味の言葉が3つありますね。
gleam = かすかに光る、キラリと光る
glow = 輝く、真っ赤に燃える
shine = 光る、輝く、照る
この3つ、ほとんど意味は同じなので、だいたいの文章ではそれぞれの表現を入れ替えても大差ない気がしますが、それぞれ微妙に意味は違います。
まず光の強さの度合いでいうと、shine がいちばん強くハッキリ光っていて、gleam や glow はじゃっかん弱い光を指す傾向があります。
状況としては gleam は遠くでかすかに光っているとか、すりガラスみたいな何かを挟んで光ってみえるとか、そんなイメージ。
glow は熱を放って光る、あるいは熱を放っているかのように光る、みたいな意味で使われることが多いです。
光源の概念でいうと、shine や gleam は何か他の光るものを反射して輝いているという可能性もありますが、glow それ自体が光を放っている場合に使われます。
glow in the dark(暗闇で光る)なんて慣用句もありますよね。
映画などでよく聞くのは、紅潮してほっぺたが赤くなるときに glow と描写されたりします。
光の強さでいうと shine が特別で、光源でいうと glow が特別なんですね。
とは言っても、この3つの言葉はだいたい似たような意味なので、この曲の歌詞のように、文章に変化をつけるために一緒に使われることも多いです。
The sun that shines, the moon that glows.
映画『マイ・フェア・レディ』より
(輝く太陽、光る月)
Give me a head with hair
映画『ヘアー』より
Long, beautiful hair
Shining, gleaming
髪の毛を出せ
長くて、美しくて
光り輝く髪を
Bring back what once was mine
これは英語の解釈というより、日本語への訳し方の解説ですが。
Bring back what once was mine
(かつてのわたしをとりもどせ)
bring back(取り戻す)の目的節になっている what once was mine は、文字通りには「かつて私の持っていたものを」という意味のフレーズですね。
私は常々、英語は「抽象的な概念を正確に言い表すのに機能的な言語」、日本語は「そこまで言わなくても空気を読めばわかるでしょ的な言語」だと考えています。
なので、こういうセリフを日本語に訳すときは、「かつての私を」とスッキリ訳してしまうのが文学的にはいちばん妥当だと思いますね。
この、日本語と英語の特徴の違いについては以前「日本語と英語、優れているのは? 邦画の英語タイトルからわかること」という記事でもちょっとふれました。
design(デザイン)の解釈について
Change the Fates’ design
定められた運命を変え
この1行に design いわゆる「デザイン」という言葉が使われていますね。
日本語の「デザイン」は一般的には美術・芸術の概念で使われる場合が多いですが、英語の design はもっと意味が広く、「設計」「計画」「図案」などの意味でもよく使われます。
この歌詞の Fates’ design の場合は「運命が定めた事柄」みたいな意味ですね。
あとがき
というわけで、本日から新しく『塔の上のラプンツェル』で英語の勉強をはじめることになりました。
『アナと雪の女王』が終わってまたディズニー映画が続くのはどうかと悩んだのですが、やはり好きな映画を扱うのがいちばんだと思い、これにしました。
いい映画ですよね。
しかしこのラプンツェルはアナ雪よりも英語が簡単なので、あまり回数は多くならないんじゃないかと思います。